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福岡地方裁判所小倉支部 昭和31年(ワ)518号 判決

原告 児玉藤吉 外四名

被告 国

訴訟代理人 鏡正己 外一名

主文

原告等所有の福岡県遠賀郡芦屋町芦屋字高浜三〇四四番地の宅地と被告所有の右高浜一四五五番地の三三および同三二の土地との境界線は、別紙図面表示の294 295 296の各地点に存する境界石標上面中心点を基点とし、294と295の各点を結ぶ直線と一五三度294点から略南方へ五・五〇米の地点を293点とし、295と296の各点を結ぶ直線と七五度三〇分296点から略南東方へ三〇・九〇米の地点を297点とし、右293 294 295 296 297の各点を順次結ぶ直線であることを確定する。

訴訟費用は原告等の連帯負担とする。

事実

一、原告ら訴訟代理人は、原告ら所有の福岡県遠賀郡芦屋町芦屋字高浜三〇四四番地と、被告所有の同町同字一四五五番地の三三との境界線は、芦屋町から遠賀村に通ずる県道上の米国駐留軍用放水路にかかる橋梁西南端から、方位角約一九四・一度略西南方五・四七間の地点を(1) とし、同点から方位角約三一四・三度略西北方へ一・一間の地点を(2) とし、同点から方位角約三二〇・六度略西北方へ一四・九間の地点を(3) とし、同点から方位角約四八・六度略北方へ〇・九間の地点を(4) とし、同点から方位角約一〇六・三度略東南方へ一・一間の地点を(5) とし、同点から方位角約一四四・五度略東南方へ八・二間の地点を(6) とし、右(1) (2) (6) (5) (4) (3) の各点を順次直線で結ぶ線であることを確定する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

(一)  その請求の原因としてつぎのように述べた。

(1)  福岡県遠賀郡芦屋町芦屋字高浜三〇四四番地の宅地二七二坪(以下原告ら所有地という)は、もと訴外児玉シゲの所有であつたところ、大正七年十一月十六日同訴外人が死亡したので、遺産相続により原告らがその所有権を取得したが、同地の北側に隣接する同町字高浜一四五五番地の三三の土地(以下被告所有地という)は被告の所有地である。

(2)  右被告所有地はもと保安林指定地であつたが、昭和二十七年十一月該指定が解除され、翌二十八年八月頃から解除跡地の払下が行われ、その頃被告は右土地を訴外森山武雄に賃貸したので、同人は同三十年十一月二十日頃同地上に家屋を建築した。

(3)  ところが、原告ら所有地と被告所有地との境界は、前記申立の(1) (2) (6) (5) (4) (3) の各点を順次直線で結ぶ線であるのに、被告は右境界を侵して訴外森山に対する土地の賃貸または払下計画をしている。

(4)  しかしながら、原告ら所有地と隣接地との境界は、前々所有者たる訴外児玉鶴松当時から今日まで何ら変更されたことなく、字図によるもまた森山間の貸借前の地形上からするも極めて明瞭なので、右境界の確定を定めるため本訴に及んだ。

(二)  被告の抗弁事実を否認し

(1)  被告はその主張の境界は明治三十九年九月国有林野法に基づく境界査定処分によつて確定されたもので、該査定は当時の国有林所管庁熊本大林区署が、土地所有者児玉藤蔵代理人古賀悦太郎の立会をえて適法に行われたものであるというも、これについては原告らの全く関知しないところである。

(イ) 尤も乙第一号証ないし第四号証によると、右査定が行われたかのようであるが、その手続には違法があり、同処分は原告らに対し何らの効力を有しない。すなわち査定処分は国有林野法第四条により、隣接地所有者に対する通告をもつて始められ、ついで土地所有者に対する手続として、訴外古賀なる者が児玉藤蔵の委任を受けて、査定の立会通知書の受領と査定の立会とを行つたこととなつているが、その委任状の委任者として署名押印ある児玉藤蔵は、当時すでに死亡していた(明治二十三年十月八日死亡)ので、訴外古賀に対する同人の委任は全く無効のものである。されば被告主張のとおり、仮りに訴外古賀が通告書を受領し、査定に立会つたとしても、それをもつて、所有者に対する通告書の受領と査定の立会という法定の要件を充たしたことにならない。

(ロ) 而して本件査定処分においては、国有林野法第四条後段所定のように、隣接地所有者が立会うことより、査定が行われることの通告と、これが行われた旨の通告の方が遥かに重要であることは明白であつて、前示のように隣接地所有者に対する通告が行われたとしても、その所有者に対する右の通告がない限り、査定処分の無効を生ずることは疑を容れない。よつて本件の処分は訴外古賀に対する手続に拘らず、所有者に対する以上の通告を欠くものとして無効というべきである。

(2)  被告は、原告らが主張する本件境界査定処分における訴外古賀の代理権の不存在、従つて隣接地所有者に対する査定通告および立会の不存在について、訴外古賀において児玉藤蔵の相続人たる当時の所有者児玉鶴松から委任を受け、査定の立会および査定通知書の受領をしたものである。たまたま土地台帳の所有名義人が児玉藤蔵となつていた関係上、右鶴松において藤蔵名義をもつて委任されたにすぎないから、本件査定処分は適法有効であると主張するが、

(イ) 乙第二号証の二の委任状の記載によれば、単に児玉藤蔵と記載されているのみで、被告が主張するような事実を窺知しえない。甲第三号証の一除籍謄本および甲第一号証土地台帳謄本の記載によれば、査定処分当時は鶴松が藤蔵の財産を相続していたこと、従つて隣接地所有者は当時鶴松であつたであろうことは推測できるが、この事実と右委任状の記載とは無関係であつて被告の主張は単に想像にすぎないというべく、さらに右土地台帳謄本の記載によれば、鶴松は明治四十五年三月十四日、すなわち査定処分後に所有権の移転を受けた旨の記載があるので、前記推測も極めて不確実であり、果して当時の隣接地所有者は誰であつたかの疑も生ずる。

(ロ) 而して乙第二号証の二の委任状記載の児玉藤蔵名下の印影は児玉シケとなつていて鶴松の印影ではない。この事実をもつてしても、被告の主張は単なる想像にすぎないことは明らかである。従つて、訴外古賀は、査定の通告および立会につき隣接地所有者の代理権を有していなかつたことは明白であるから、本件査定処分は手続の欠缺敏により無効というべきである。

(3)  たとえば被告主張のごとく、字図の証拠力がその沿革上低度のものであるとしても、前記のとおり境界査定処分が無効である以上、本件土地の境界は字図の境界に従うほかはない。

(イ) 字図の証拠力は被告主張のごとき沿革があつても、なお現在登記所に備えられ、土地の分筆合筆等があつた場合にはそれに従つて変更記載がなされている現状であるから、民有地所有者にとつては重要な証拠力を有することは当然である。もし原告ら先代において、本件境界査定処分が行われたことを認めていたものであるとすれば、当然字図の変更も土地台帳の変更手続もしたであろうし、さらに査定に対する不服申立もしたであろう。

(ロ) 而して原告らは、その所有権につき国有地との境界は、字図のとおりと伝えられて今日にいたるまで管理していたものであつて、その間字図の変更もなく、被告の不法越境行為を受けるまで何ら問題を生じなかつたものであり、さらに字図の線には、極く最近までこれを認めるに足る地形上の特徴があつた。

(ハ) 乙号各証によれば、原告ら所有地に対する隣接地所有者に関する手続の欠缺以外は、被告主張のような査定処分が行われたもののようであるが、その結果が本件両地間の真実の境界を示すものとはいえず、原告ら所有地との関係においては、何の意味もない単なる線にすぎないというべきである。

(4)  仮りに被告主張の査定手続が有効としても、爾来数十年に及んで字図による土地の境界は何ら変更されていない。もし査定処分による境界が字図に示された境界と異るものであれば字図は当然変更されなければならない筈であるのに、それを今日まで放置するごときは到底考えられず、字図が永年変更されなかつたとの事実は、査定処分による境界が、まさしく字図の境界と同一であつたことを意味するものと解すべきである。

要するに本件係争地の境界として確定せらるべき線は、字図に示された境界線、すなわち訴状請求の趣旨および訴状訂正申立書記載の各点を結ぶ線に疑はない。

(三)、立証〈省略〉

二、被告指定代理人は、原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め、

(一)  答弁として、原告主張事実中、芦屋町芦屋字高浜一四五五番地の三三の土地は被告の所有でもと保安林指定地であつたが、原告主張の頃これが解除され、その主張の頃被告は該地を訴外森山武雄に賃貸し、同人は原告主張の頃同地上に家屋を建築したこと。乙第二号証の二の委任状の児玉藤蔵名下の印影が、児玉シゲとなつていて鶴松の印影でない事実は認めるが、字高浜三〇四四番地の宅地を、原告らが所有するにいたつた事実およびその坪数が土地台帳および登記簿記載の坪数より減少していることは不知。右被告所有地の境界線が、原告ら主張のとおりであることは争う。

(二)  抗弁として、

(1)  原告らがその所有地として境界の確認を求める。原告ら所有という宅地と被告所有地とは隣接するところ、右両地番の境界は原告主張のとおりではなく、別紙図面国有林境界査定図(測点番号二九三から二九四・二九五・二九六・二九七を順次直線で結ぶ線)のとおりである。そしてこの境界線については、明治三十九年九月当時の国有林所管熊本大林区署において、当時の所有者児玉藤蔵代理人古賀悦太郎の立会をえ、同三十二年三月法律第八十五号国有林野法の規定に基づいて境界査定処分を実施し、右査定処分は被告主張線のとおり、夙に確定済となつたものであるから、原告の請求は失当である。

(2)原告らは本件査定処分は隣地所有者の立会および査定通告が行われていないから、その行政行為は無効であると主張するが、

(イ) 本件査定処分は、訴外古賀悦太郎において児玉藤蔵の相続人たる当時の所有者児玉鶴松から委任を受け、査定の立会および査定通告書の受領をしたものであり、たまたま土地台帳の所有名義人が児玉藤蔵となつていた関係上、右鶴松において藤蔵名義をもつて委任されたにすぎない。従つて本件査定処分は適法になされたものというべきである。

(ロ) 仮りに隣接地所有者を立会わせず、または通告を欠くがごとき手続上の瑕疵があつたとしても(前述の境界査定は権限ある官庁が正規の手続によつて査定し、これに基づいて境界線を設定したものであるから、該処分が実質上絶対無効かもしくは取消されない限り、なお有効の境界査定処分たるを妨げない。

(3)  原告らは、字図(甲第四・五号証)をもつてその主張の唯一の根拠としているようであるが、字図は官民有の区分境界を制定する資料としては、極めて価値の低いものである。すなわち明治十八年大蔵卿から各府県知事に訓令し、収税官吏をして地押調査をさせこの結果に基づいて作成されたのが現在の字図で、徴税資料という特殊目的から一般民有地の地目・反別等を、在来の図面帳簿と実地との相違を調整するためになされたものであつて、境界確定の権限を有しその目的でなされたものではない。従つて境界についてもほぼ実地に適合するものではあるが、固より高度の測量技術に基づいて作製されたものではないから、その精度は実地に対照して極めて低く、つねに必ずしも真実に合するものでないことは顕著な事実である。

(イ) 原告らはただ実測面積が公簿面積より狭少なため、その差を隣接の国有地に求めようとするものとみるほかないが、その皺よせを被告が受くべき理れはない。

(ロ) 国有林の境界査定にあたつては、官林図・改租図・地押更正図(字図)その他旧記旧図等を参照し、実地調査(実地踏査および隣接地所有者の立会調査)の上、実地測量をして境界査定標を設置し、これに基づいて境界査定簿および査定図が調製されるのであつて、本件についても右手続が履践されていることは、乙第一号ないし第四号証に照らして明白である。

(4)  以上の次第であるから、

(イ) 仮りに本件土地に対する査定処分が、手続上の瑕疵により官民有地の境界を確定するという、処分本来の効力を有しないとしても、一応なされた査定の結果は、本件両地間の真実の境界を示すということができる。たとえそれが字図と異つていても、字図の証拠力の弱いこと前述のとおりであるから、何らその真実性を左右されるものではない。

(ロ) また仮りに右査定処分が無効としても、前述のとおり本件境界査定をなすに当つては、関係土地所有者百十数名の承認をえてなされ、爾来国有林として約五十年間管理し来つたもので、その間誰一人として不服の申立をした者もない。もし児玉鶴松においてこれに不服であるならば、右事実は当然同人は知悉していた筈であるから、これに対して、異議申立等何らかの手段を尽さない道理はありえない。しかるに右鶴松およびその後の所有者から、今日まで数十年間何らの申出もなかつたのであつて、このことは本件境界線が、被告主張のとおりであることを物語るものといえる。

(三)  立証〈省略〉

理由

一、原告主張事実中、被告所有地はもと保安林であつたが、原告主張のころこれが解除となり、被告は該地を訴外森山武雄に賃貸し、同人は原告主張の頃同地上に家屋を建築したことおよび遠賀郡芦屋町字高浜三〇四四番地の北端および西端が被告所有地と相隣接することは、当事者双方の主張に徴して争がない。

二、右高浜三〇四四番地宅地二百七十二坪(公簿上)が原告らの所有に属するかどうかについて判断するに、成立に争のない甲第一・二号証、第三号証の一・二・三によれば、同宅地はもと児玉藤蔵の所有で土地台帳には登載されていたが未登記であつたのを、同人が明治二十三年十月八日死亡により養子児玉鶴松がこれを相続し、同四十五年三月十四日保存登記をなし、即日売買により藤蔵の妹クラの子児玉シゲがその所有権を取得登記をなし、大正七年十一月十六日同人死亡により、原告らがこれを遺産相続して現在にいたつていることを認めることができる。

三、被告の、原告らが所有するという右三〇四四番地の宅地と被告所有地との境界は、明治三十九年国有林野法に基づく境界査定処分によつて確定されているとの抗弁に対し、原告らはこれについて何ら関知しないが、乙第一号ないし第四号証によると、訴外古賀悦太郎が原告ら所有地の当時の所有者児玉藤蔵の委任を受け、境界査定の立会通知書の受領・査定の立会を行つたことになつているが、該委任状に委任者として署名押印している児玉藤蔵は当時すでに死亡していたから、右古賀に対する委任は無効であり、同人が境界査定通知書を受領し査定に立会つたとしても、それをもつて所有者に対する法定手続が充足されたことにならず、従つて右査定処分は無効である旨主張するのでこれについて判断する。

(一)  公文書たるによりその成立を認めうる乙第一・三・四号証の各一・二・三、同公文書の関係書類の一部たる性質を帯有することにより成立を認めうる乙第二号証の一・二によれば、原告ら所有地のもと所有者児玉藤蔵は、明治三十九年外百十二名とともに訴外古賀に対し、国有林野法に基づく官民有地の境界査定の立会並びに査定通知書受領の権限を委任し(乙第二号証の二)同人は同年九月二十二日熊本大林区署境界査定官吏山林属鹿毛省吾から、同日付境界査定立会通知書を受領し(乙第二号証の一)、その後鹿毛省吾は訴外古賀立会の下に、本件を含む境界査定を了して関係書類および図面を作成した上、これを具して熊本大林区署長に対し境界査定済承認伺をなし(乙第一・三号証の各一・二・三)、同四十年五月十五日これが決裁され、同年同月二十四日訴外古賀に対し、右境界査定通知書が配達証明郵便によつて発送された(乙第四号証の一・二・三)ことを認めることができ、右査定処分に対し児玉藤蔵またはその相続人から、法定期間内に行政裁判所に対し不服申立をしたとの証拠はないから、該査定処分は形式上適法に行われて確定したものと認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  ところで乙第二号証の二の委任状によれば、前認定のように明治三十九年児玉藤蔵名義で訴外古賀に対し、本件境界査定手続に関する代理権限が授与され、かつ児玉藤蔵の氏名下の印影は児玉シゲとなつており、藤蔵は同二十三年十月八日死亡したことは、乙第二号証の二によつて明らかであるから、形式上死者の名義をもつて右委任状が作成されているわけである。

而して土地台帳上の土地所有名義人が死亡し、未登記のまま該地の所有権が相続を原因として移転した場合に、その被相続人たる土地台帳上の所有名義人を所有者として、同人宛の境界査定の立会通知並びに査定通告書の送達によつてなされた査定処分は、該地の相続人に対してなされたものと解すべく、しかもその真の所有者がこれを知りまたは知りうべかりし状態にあつたに拘らず、該処分に対し適法な不服申立をしなかつた場合には、右の瑕疵は治癒され、該処分を無効ならしめるものではないと解するのが相当であるところ、

(1)  右委任状の成立の経緯について考えるに、さきに認定したとおり、原告ら所有地は同委任状作成時たる明治三十年当時は児玉鶴松が所有していたが、未登記で土地台帳にのみ前所有者児玉藤蔵名義で登録されていたので、熊本大林区署の要望により、その相続人鶴松が訴外古賀に交付した委任状(外百十二名と連名)に記名押印するにあたり、新たに該地を自己名義に保存登記するの煩を避け、便宜死者たる前主児玉藤蔵の氏名を記しかつ自己の印を持合さなかつた等の事情で、児玉シゲ所持の印を児玉藤蔵名下に押捺したもの、すなわち特別事情の存したことの主張および立証のない本件においては、該地の真の所有者たる鶴松が、その真意に基づいて児玉藤蔵の氏名を仮用して委任したものと推認することができ、その氏名下の印影が同人の印と異なるものであつても、委任が真意に基づくものと思われる以上、その委任の効力には何らの消長を及ぼすものではないというべく、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。

(2)  さらに前認定のとおり、原告ら所有地の当時の所有者鶴松から代理権を授与された訴外古賀において、本件査定立会の通知を受けて査定に立会い、査定通告書を受領したことが認められ(乙第三号証の三・一第四号証の三)、特別の事情がない限り、その頃鶴松は訴外古賀から該通告書の交付を受け、本件査定処分を知つたものと推認すべく、右特別事情の存したことについては何らの主張および立証はなく鶴松は右査定処分に対して適法な不服申立をしなかつたものと認むべきことは前認定のとおりである。

さればかかる事情の下においては、死者名義をもつてなした前記代理権授与の形式上の瑕疵は治癒され、該査定処分を無効ならしめる違法事由とはなしがたく、原告らの本件境界査定処分無効の主張は理由がない。

四、原告らは仮りに右査定処分が有効であるとしても、該査定処分による境界が字図に示された境界と異なるときは、字図は当然変更されねばならないのに、爾来数十年にわたり変更されていない事実に徴し、右査定処分による境界は字図による境界と同一であることを意味し、字図表示の境界線が本件原被告各所有地の境界線である旨主張するので案ずるに、成立に争のない甲第五号証・公文書たるにより成立を認めうる乙第一号証の二・三、鑑定人渋田芳人の鑑定(昭和三十二年七月二十日付)の結果を綜合すれば、被告査定の境界線と字図表示の境界線とが合致しないことは明らかであり、被告が境界査定処分をしたからとて、つねに必ずしも法務局備付の字図が変更されるとは限らないというべく、これと異なる原告らの主張は独自の意見であつて採用に値しない。

五、右乙第一号証の二・三、証人早川利夫の証言により成立を認める甲第七号証、鑑定人渋田芳人の鑑定並びに第一回検証の各結果に証人渋田芳人・本田菊郎・吉水通喜男・早川利夫の各証言を綜合すれば、乙第一号証の二・三による本件境界線が正確に展開されているものと認める右鑑定書添附の附近平面図表示の、被告設置の境界石標294は約二十年前に、295は昭和三十二年二月頃に、296および300は本件被告査定の時にそれぞれ設置されたものであり、297の地点にももと境界石標が設置されていたが、昭和三十一年頃道路側溝工事の際取除かれて現存せず、また293の地点には境界石標は存しないことを認めることができ、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

而して鑑定人渋田芳人の鑑定の結果によれば、同鑑定人作成の高浜附近平面図表示の300 296の各地点(いずれも同番号入り境界石標があることは検証の結果認めうる)および任意の位置に図根点を設け、これを基点として乙第一号証の二・三により成規の方式で測定した原被告の本件各所有地の境界点は、右不動の294 295 296の各石標上面中心点を基点とし、もと同様の石標が設置されていたものと認める297の地点(295と296の各点を結んだ直線と七五度三〇分296点から略南東方へ三〇・九〇米の地点)に合致し、前同様の石標は設置されていないが294 295 296の各点を基点として乙第一号証の二・三による展開上自から定まる293の地点(294と295の各点を結ぶ直線と一五三度、294点から略南方へ五・五〇米の地点)であることが認められるから、本件原被告各所有地の境界線は、別紙図面表示のとおり右293 294 295 296 297の各点を順次直線をもつて結ぶ線であると認めるのが相当である。

六、よつて原告の本訴請求は失当というべく、訴訟費用負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中倉貞重)

別紙図面〈省略〉

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